”血液透析” 動脈表在化とは? Vascular Accessの基礎(第三弾)
こんにちは、CE ガッチです。
気が付けば日本全国への緊急事態宣言の適応。
執筆時点でのCOVID-19感染透析患者数は累計47名(4/17の日本透析医学会公表値)。
日本透析医学会での統計調査「2018年末 わが国の慢性透析療法の現況」での死因第2位でもある「感染症」、少しも油断が出来ない状況なのは透析施設でも同様です。
着実に感染者数が伸びてる昨今、最初の宣言後まもなく2週間が経とうとしていますが状況はあまり変化している実感はありません。
全国の医療従事者の方の頑張りに感謝します。
自分も微力ながら頑張らせていただきます。
今自分のできる事、しっかりやります。
さて、本日も前回同様のシリーズ「Vascular Access」での第3弾。
「動脈表在化」に関する内容をやりたいと思います。
動脈表在化も高齢化に伴い、近年徐々に患者数が増加している傾向にあると感じます、適応から管理まで読んでいただけると嬉しいです。
新人もしくはこれから透析室で働く方、現在バリバリ働いている方も一緒に勉強できればと思います。
それではよろしくお願いします。
動脈表在化とは
「動脈表在化」とは、
であります。
表在化された動脈は脱血に使用し、送血側は通常の表在静脈を使用します。
穿刺に関して、個人的には”現在は”グレーゾーンな気がしている部分ではあります。
これは、臨床工学技士業務指針 Ⅲ-3 血液浄化業務 1・2においては
1、血液浄化装置の先端部(穿刺針)の内シャントへの穿刺及び内シャントからの抜去
2、血液浄化装置の先端部(回路チューブの接続用部分)の外シャント及びあらかじめ身体に設置されたカテーテルへの接続及び当該部分からの抜去
引用:臨床工学技士業務指針 Ⅲ-3 血液浄化業務 1・2
と記載があるからです。あくまで内シャントであり動脈ではありません。
しかしながら、日本臨床工学技士会 「2016年 臨床工学技士によるバスキュラーアクセスの日常管理指針 初版」には、上記に関し、
“血液浄化業務における「内シャント」は「バスキュラーアクセス」と読み替える”と、時代的背景で用語の変化に対応したが、動脈直接穿刺など拡大解釈の可能性もあるため「血液浄化装置のために予め用意したバスキュラーアクセス」と明記すべき課題もある。
引用:2016年 日本臨床工学技士によるバスキュラーアクセスの日常管理指針 初版
との記載もあり、タスクシフティングの要綱内にも要望として記載がありますので、あくまで”現在は”グレーゾーンになるのかなと解釈しています。
適応は
やはりこれは押さえておかないといけない部分です。
日本透析医学会 「2011年版 慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」より抜粋させていただきます。
引用:日本透析医学会 2011年版 慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン
- 内シャントによる心負荷に耐えられないと予想される症例。左室駆出率(EF)30~40%以下を作製の目安とする。
- 表在化静脈の荒廃により内シャント手術が困難な症例
- 吻合する適当な静脈が存在しない症例
- AVFでスチール症候群を生ずると考えられる症例、もしくはAVF(AVG)を使用していて、すでにスチール症候群を呈している症例
- AVFを作製すると静脈高血圧(ソアサム症候群)をきたすと考えられる症例、またはすでに静脈高血圧をきたしている症例
- 頻回にアクセストラブルを発生する患者のバックアップ
- 透析療法以外でも、長期に血液浄化療法を必要とする。例えば家族制高脂血症などで作製されることがある
ざざっと羅列をしてしまいましたが、AVG同様、どちらかというとセカンダリーなVAと言えるのかなと思います。
あくまで第一選択は「AVF:自己血管使用動静脈瘻」です。この中でも重要なことは、
なのかなと思います。
血管の吻合を有さない為、静脈還流量は増加せずに不変になりますので、心臓への影響はとても少ない(実際には送血がなされるので影響はゼロではないと考えられる)。
短絡による血流障害がないという事になり、VAとしてとても優秀に感じますね。
しかし、動脈の為ひとたび穿刺ミスが生じた際のリスクはとても大きいです。
内膜肥厚や狭窄などが生じた際はその末梢側の血流へ直接影響が出てしまいますので、表在血管の豊富な方や心機能への影響が許容できると予想される方等に関しては、やはり第一選択にはなりえないのかなというのが正直な感想です。
動脈表在化は心機能に影響を与えない
スチール症候群やソアサム症候群を呈さない
作製部位
表在可能な動脈は、
のずれかになりますので、作製部位は上記のどちらかになってきます。
自分は今のところ上腕での表在化しか経験したことがありません。普段内シャントの穿刺ばかりしていると動脈表在化の方の回路接続には違和感を感じるかもしれません。
その原因は、静脈の穿刺部位にあります。
動脈表在化を行っている患者さんの送血は、通常の表在静脈になります。
ですので送血部位はどうしても確保しやすい・見やすい表在の静脈、つまり肘関節部の正中静脈もしくは前腕橈側皮静脈・尺側皮静脈が多くなってきます。
という事は、回路接続の際に送血側の方が末梢になるパターンもおのずと多くなってしまいます。
なので、動静脈回路の逆接続などが発生しやすい状況と思います。
自分も含め、インシデントの発生には気を付けてください。
また、表在化の手術をした後にすぐ穿刺をすることはしてはいけません。
これは、術後すぐでは表在化された動脈と周りの組織との癒着が軽度の為、抜針時等に血腫を形成することが多いためです。
また、表在化時の創部の治癒状況も確認しなければなりません。
このようなことから、e-PTFEでのAVG同様に2週間以上(可能であれば3週間)経過後に穿刺することが望ましいです。
動脈表在化を穿刺するにあたり
表在化をされてはいますが、動脈は動脈です。
穿刺するにあたり、注意しなければならないことがあります。
まず、
です。
表在化させている部分がどのくらいあるかに起因することではあるのですが、どうしても穿刺しやすい部分に集中がしがちです。
エコー下穿刺を行ったり、時々穿刺に長けているスタッフがずらして穿刺をするなどの対策をして穿刺部を散らしていくのが望ましいかと思います。
また、動脈であるがゆえに、感染に関してもより注意深く観察をしていかないといけません。もし感染が重度になった場合は人工血管でのバイパスや置換等を行わなくてなりません。
この事から消毒もポピドンヨードを選択されることが多いのかなと思います。これは個人的には、ポビドンヨードの方が効果持続時間が長いことに起因しているのかなと考えています。
ポピドンヨードに関しては、遅効性の為時間が経過(30~60秒程度)をしてはじめて最大効果の殺菌力を発揮します。また、有機物と混ざることで活性が弱まってしまうのでしっかりと乾燥させることが大切です。
もしほかの理由がありましたら是非教えていただければと思います。
他にも、瘤や血腫の形成が認められた際にはエコー等で定期的に観察し、その径や内腔を確認し拡大がないかを評価する必要があると考えます。
まとめ
動脈表在化に関して、VAの一種ではあるのですがあくまで動脈です。
臨床工学技士として管理するべきVAではあるのですが、触ってよい部分なのかは前述のとおり現在はグレーな部分が多いので解釈が難しいです。
しかしながら、血液透析を行うためには必ず必要なものであり自分達の業務とは切っても切ることはできません。
もし、勤務されているご施設にいらっしゃるのであればしっかりと管理してあげてもらえればと思います。
そして、今日読んでいただいた内容も是非同じご施設の方と共有していただければ嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
CE ガッチ
参考文献
・臨床工学技士業務指針
・日本臨床工学技士会 「2016年 臨床工学技士によるバスキュラーアクセスの日常管理指針 初版」