CEガッチと愉快な仲間たち

CE ガッチと愉快な仲間たち

某病院で臨床工学技士として働くガッチの疑問と私見

”血液透析” ECUMについて考える

こんにちは、CE ガッチです。

 

最近、ECUMのタイミングとQBで悩んでいます。

読んでくださる方も疑問に思ったことがあるのではないでしょうか?

・HDの前に施行すべきなのか、後にすべきなのか。
・QBは下げなくてはいけないのか、変更をしなくてもよいのか。

 どうでしょう?

恥ずかしいことながら初めてこの疑問を持ち始めたのは透析に従事して7.8年も経過した頃でした。

当時少しばかり関連する論文を読んだ記憶があるのですが、記憶としてうっすらとしか残っていません。

良い機会と思い再度疑問にぶち当たっている今、情報を整理しながら改めて私見も含めて考えていきたいと思います。

少し私見が多い内容になるかもしれません、温かい目で見守っていただければ幸いです。

よろしくお願いします。

 

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 ECUMとは

まずは、そもそもECUMとは何なのかを復習します。

ECUMとは、Extra Corporeal Ultrafiltration Methods:限外濾過法の略です。

この名前が示す通り、

限外濾過だけで過剰となった体液を排除する方法

です。つまり除水のみです。

HDの原理は拡散・限外濾過です。

このうち、拡散を担うものは「透析液」になります。

つまり、限外濾過のみになるという事はこの「透析液」の循環無しに治療を行います。

(治療には使用しないので、”使用しない”と言われることが多い)

しかしながら、除水するにも血液側と機械側での密閉回路が必要になります。

この密閉回路を作るために、準備をする際は透析液を使用してフィルターの透析液側を満たすことになります。

ECUM施行の際は、透析液がフィルターに流れないので透析液は使用しないと言われています。

 

血圧低下に効果がある?

ECUMに関して、このようなことは聞いたことがないでしょうか?

「血圧が下がりにくい」

これはなぜなのかを考えたいと思います。

除水を行った際に血圧が下がる理由は様々あると思いますが、主な理由は「水分除去」によるボリュームの減少です。

それでは限外濾過にしても変わらないのでは?と思われるかもしれませんが、その後の動きが変わってきます。

血液は水分が除去されればそれを元に戻そう(補填しよう)という恒常性が働きます。

それがこの数年でよく耳にするようになった「プラズマ・リフィリング」(血漿再充填)というものです。

一般的によく聞くようになったのは、「I-HDF」の開発があったからだと思います、効果の一つに「還流面積増大によるプラズマ・リフィリングの増加」がありましたね。

 

 この「プラズマ・リフィリング」に関する動きが変わってくると考えます。

プラズマ・リフィリングの駆動力は主に浸透圧差です、つまり浸透圧の動きに変化が生じるために血圧の動きが変わってきます。

血管内水分を保つ浸透圧には、

血漿浸透圧 ・ 膠質浸透圧

の2つがあります。

ECUMに関しては、1の血漿浸透圧が関わってきますので、今回は血漿浸透圧について少し考えてみたいと思います。

血漿浸透圧とは

電解質に起因する浸透圧です。

具体的にはNa、K、GL、BUNになり、おおよその血漿浸透圧は下記の式で表されます。

血漿浸透圧(mOsm/L)
=2(Na+K)(mEq/L)+血糖(mg/dL)/18+BUN(mg/dL)/2.8

様々な方がたくさんの媒体で書いていますので、見たことがある方も多くいらっしゃるかと思います。

上記の式でK・Gl・BUNは、拡散により除去されていきます。

一番大きく影響してくるのは「BUN」です。

個人差はありますが、治療前を80mg/dL・治療後を20mg/dLと仮定します。

このBUN60mg/dlの差で浸透圧は約21sm/L下がるわけです

これが水分を引き込む力の減少となり、除水とのバランスが崩れた時点で血圧が低下していく事になります。

 膠質浸透圧とは

膠質浸透圧とは、血漿タンパクによる浸透圧です。

透析において、主に血漿アルブミンの濃度により規定されます。

治療の方針によりますが、前後でのアルブミン値の大きな変化はないと考えます。それに伴って膠質浸透圧も大きな変化はないと考えます。

しかし、考慮すべきこととして、

高齢透析患者さんの中には、近年言われるフレイル・サルコペニアでの常時低アルブミン血症があること

ハイパフォーマンスなODHF・ハイパフォーマンスな膜を使用しての治療における高度なアルブミンの漏出を考えると、後半での膠質浸透圧低下も発生しているだろうとのこと

があげられると思います。

アルブミン血症や高度のアルブミン漏出は、後半でのECUMに影響を与える可能性があると考えます。

また、ECUMにおいては、2005年の片山俊郎ら「生体インピーダンス血漿膠質浸透圧の同時計測による生体内水分量の推定」では後半にかけて上昇していくとの報告もあります。

これはECUMでの限外濾過ではアルブミンはリークしないことが原因であると考えます。

前後に関しては

これらから、浸透圧の事を考慮すれば

透析前にECUMを行った方が浸透圧の低下が小さく、除水を完遂しやすい。

と考えられます。

もし、医師による継続でのECUMありきな除水指示(~以上残ったらECUM追加等)の場合で、毎回ECUM切り替え時に血圧が…という患者さんがいらっしゃる場合は、一考する価値もあるかもしれません。

しかしながら、BSMによってはECUMを先にしてしまうとI-HDFに移行ができなかったりと問題も生じますので、ご施設にあった運用を考えていただければと思います。

 

 QBを下げるかどうか

 次はECUM時のQBに関して、下げる意義があるのかを考えたいと思います。

先に自分の考えを書かせていただくと、「そこまで影響しうる大きな意味はない」です。

 

いろいろと調べていても、理論的な根拠は見つけることが出来ず説明が難しい部分ではありますが、いくつか個人的な考えを書かせていただければと思いますので優しく見守ってください。

まずは下げる際の発生しうるメリットを考えてみました。

1、体外循環時間の延長→血液が冷える→末梢血管抵抗の増加→血圧維持
2、回路内循環速度の低下→血球へのずり応力の低下→血球保護
3、TMP上昇軽減(治療後に施行する場合や除水速度による)

です。

 

発生しうるデメリットも考えてみました。

1、血液の過濃縮が起きる(下げすぎた場合)
2、手技の統一徹底をしていないと煩雑になりインシデントとなりえる
3、低透水性膜でのTMP上昇(治療後に施行する場合と除水速度による)

 

上記に、現在自分が考えられることを羅列させていただきました。

振り返ってみると、QBを下げてこのメリットを実感したかと言われれば「?」な部分が多いです。

しかしながら、デメリットを振り返った際に「1」と「2」に関しては何度か経験をしたことがあります。

 「1」に関しては、除水速度はQBの30%以下・ヘマトクリット値を考慮しなければなりません。後半のヘマトクリット上昇を考えればもう少し上限は下がるかもしれません。

 

これらから、個人的な考えではQBは下げなくても良いと考えます。

しかし、前提として透析室の方針であったり先輩からの教えであれば、しっかりと守ってください。

はっきりとしたエビデンスなどがないという事は、先輩方が意義を考えて行っているという事です。

そのことは、考慮すべきです。

 

まとめ

以上、本日は個人的な考えが多い内容でしたが、少しでも参考にしていただければ幸いです。

自分も今回記事をまとめる中でリサーチをしながら、先輩の意見を聞きながら改めて知識を頂きました。

ちょっとしたことでも疑問に思った際は、調べてみると力になります。

本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

CE ガッチ

 

参考サイト

トップ|(一社)日本血液浄化技術学会「JSTB」

プラズマ・リフィリング | MediPress透析

臨床工学技士TAKAの本音 | 人工透析について患者さん、看護師、コメディカルに役立つ情報を発信していきます。

参考文献

片山俊郎・佐藤哲大・湊小太郎 「生体インピーダンス血漿膠質浸透圧の同時計測による生体内水分量の推定」生体医工学会誌 43.(4).2005