”血液透析” QBとは? Vascular Accessの基礎(第一弾)
こんにちは、CE ガッチです。
緊急事態宣言が7都府県に発出され、その他の地域においても外出自粛が拡がっている為、在宅頻度が必然的に高くなってきました。
PCに向かうことも多くなり、記事の更新頻度も少し上がっております。
時々外の空気を吸いながら、リフレッシュして過ごしていきたいです。
本日は透析効率の三大要素である、
のうちの「QB(血液流量)」に関連する事について書いていきたいと思います。
QBは、上記にあるように三大要素の一つとして大きな役割を担っています。
臨床工学技士を含めたコメディカルが管理に大きくかかわれる分野でありますので、是非勉強したい内容です。
QB(血液流量)とは
初めに、QBとは何なのかを復習します。
QBとは、「Quantity of Blood flow」の略で「血流の量」、つまり「血液流量」のことです。
血液浄化分野において、単位は「ml/min」を使用し、1分間に何ml流れる速度で血液を循環しているのかを表しています。
例えば、QB200ml/minは「1分間に200ml流れる速度で血液を循環している」という事になります。
QBに関しては、日本透析学会の統計調査にて2018年度末の結果が出ております。
これらから日本でのQB設定は200~260ml/minが大半を占めていることがわかります。
勿論、小分子に関してはQBが高い方が除去効率は上がり、結果的には透析効率の上昇に寄与してきます。しかしながら、大分子や低分子蛋白に関しては、QBが高くなるにつれ除去効率の上昇はなだらかになってきます。
また、大分子の除去に関してもQBはもちろん影響がありますが、どちらかというと膜面積や透析時間、治療法で違いが出てくる部分です。
さらに、体重が少ない患者さんに関しては、循環血液量もその分少なくなります。そのような患者さんへの過大な脱血は、一時的とは言え体循環への影響が大きくなってしまいます。
つまり、QBだけをあげればよいわけではなく、患者さんへの負担や他の因子とのバランスを考慮し治療条件を決定していかなくてはいけないと考えます。
そのような中、規定されたQBをしっかりと脱血できるように自分達臨床工学技士を含むコメディカルが管理すべきもの、それが「Vascular Access:VA」です。
VAは総称であり、ものによってシャントであったりアクセスと呼称されています。
VAに関しては、「日本アクセス研究会」というものも存在し、その重要性が図れます。
気になる方は、下記にリンクを貼りますので是非のぞいてみてください。
Vascular Accessとは
つまり内シャントやカテーテル等を含めた人体側の血液アクセスになります。
VAは大きく3つに分類され、その中でも内シャント・カテーテルが2分類の基本5つに分かれます。
以上5分類の中で、現在のVA作製における第一選択であり、割合が1番多い「自己血管使用動静脈瘻:AVF」について記載したいと思います。
本当を言えばすべてにおいて記載をしたいところではありますが、内容が膨大になってしまう為、小分けにしたいと思います。ご容赦ください。
自己血管動静脈瘻:AVF
AVFとは、
です。記載があるように基本的には慢性維持透析患者でのVA作製にあたり第一選択となります。
しかしながら自己血管の荒廃や対象血管が細く作成が困難な場合、ブリッジ的な血液浄化では第一選択にはなりえません。
経験上、前者は高齢者に多く、後者は予定された腎移植までの待機期間や急性期の管理等となります。
備えるべき条件
必要な条件、目標とする治療を行うにあたり、備えるべき条件があります。それらに関して私見も含め書いていきたいと思います。
穿刺が可能
備えるべき条件というか最低条件に思います。
まず第一に万人が穿刺可能でなければ治療も開始できません。以前ある医師の方からこんなことを言われました。
「穿刺困難は、立派なアクセスの機能不全だよ」
人の血管であり、穿刺をするのが人である以上、必ずがないことは承知しています。
しかしながら、患者さんは年に72週×3回×2本の穿刺をされます。
このことを考えれば、とても大切であり重大な条件だと考えます。
機能評価
現在はシャント管理の分野において、エコーが多用されます。
その中でも、シャント肢の上腕動脈でのFV・RI(血管抵抗指数)の測定が推奨されています。
日本透析医学会における「2011年版 慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」や、多くの文献・ガイドラインでの機能不全を観点とした推奨カットオフは、FV500ml/min(もしくは20%以上の低下)・RI 0.6以上となります。
つまり備えるべき機能としてはFV 500ml/min以上、RI 0.6未満となります。
しかし、これらは推奨値であり目安です。
患者さんによっては、血管走行の関係でFVの低下がみられない場合もありますし、RIの上昇がみられない場合もあります。
このような場合は、FV・RIではなく理学所見上での別な指標や、経験が必要ではありますが治療中や穿刺時における違和感が大切になってきます。
また、2020年度の診療報酬改定にてVAIVTにおける3ヶ月ルールが部分的に撤廃されました。
これは、
引用:医療実態を踏まえたシャント設置術の見直し(2020年度改定告示・通知(4)4 200305)
となるもので、公的にVAIVTにおいてFV400ml/minをカットオフとすることが明記されました。
もしかしたら。上記の件でVA管理におけるFVのカットオフについては見直されることとなるかもしれませんね。
管理
AVFを長く持たせるために、やはり管理は欠かせません。
スタッフ側の管理と患者さん側の管理について触れてみたいと思います。
スタッフ側の管理
VAに関しては医師よりも、穿刺者であるスタッフの方が触れる機会が断然多いです。
つまり、病院におけるVAの日常管理はコメディカルが担っているといっても過言ではないです。日頃の管理においてプロとしてしっかりと管理に臨まなくてはいけません。
その中でも重要なことは、
です。
そう、理学的所見です。
- 発赤などの皮膚異常がないか
- 腫脹がないか
- 狭窄はないか(視覚的狭窄)等々
- 狭窄音はないか(高音域)
- 拍動音はないか
- 音量はどうか
- 硬結はないか
- 狭窄はないか(狭窄触知)
- 皮膚表面の異常はないか(触知による)
等がわかります。
「2011年版 慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」の第4章 バスキュラーアクセスの日常管理(3)VA機能のサーベイランス・モニタリングにおいてもその重要性が記載されています。
他にも、再循環の測定・超音波を使用した形態評価と機能評価がサーベイランスとして有用であることの記載がされています。
是非読んでもらえればと思います。
まとめ
以上、QBの概念からVAの分類、AVFの基本から管理までを書かせていただきました。
たくさんの内容があり、分りづらい部分もあったと思います。
内容的に紹介しきれていないものもたくさんあります、時間が許すときに是非調べてみてください。
VAに関して、ガイドラインだけでなく様々な本も出版されています。
近いうちに紹介もしたいと思いますので、その際は参考にしてもらえればと思います。
本日も読んでいただきありがとうございました。
CE ガッチ
参考
・特定非営利活動法人-日本アクセス研究会:日本アクセス研究会
・QBって何ですか? | MediPress透析:Medipress透析
参考文献
・2011年版 慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン (日本透析医学会 2011年)
・臨床工学技士のためのバスキュラーアクセス日常管理指針 初版
(日本臨床工学技士会 2016年)
”血液透析” 限外濾過について
こんにちは、CE ガッチです。
最近は新型~の影響で各種セミナーや学会が軒並み延期や中止を余儀なくされています。
世の中のことを考えるとしょうがないことなのですが、今年は多くの学会に参加してご当地グルメを楽しんで……ではなく、多くの視点を学びに行こうとしていただけに悔しいです。
早く以前のように、気軽にセミナーや学会に参加できるようになることを願っております。
という事で、前回は血液透析の代表的な原理である「分子拡散」について、自分の再確認を含め書かせていただきました。
まだ読んでいない方は、下記から読んでみてください。
本日はもう一つの重大な原理である「限外濾過」について書いていきたいと思います。
「限外濾過」に関しては、まず「濾過」を理解することから始めたいと思います。
濾過について
濾過とは
という事になります。
硬い文章になってしまいますので、簡単に言うと、
ある物質とある物質を(液体や気体、固体)を、細かい穴の開いたものを通して分けるという事です。
そして、濾過は圧力を推進力として働きます。
濾過は日常的にいろいろな場面に潜んでいます。
浄水器もその一つで、活性炭等の”ろ材”を使用しながら”塩素”や”カルキ臭”等を分離しています。
コーヒーを入れるコーヒーフィルターや、今や品薄で探している方も多いマスクも濾過の原理を使用して分離を行っています。
大雑把ではありますが、上記で大まかに濾過というものをおわかりいただけたかと思います。
それでは次に濾過の分類に行きたいと思います。
濾過の分類(孔径による)
濾過には、使用するろ材の孔の大きさにより4種類に分かれます。
濾過はこのように分類され、それぞれが役割をもって使用されています。
血液透析の現場で言えば、
粗濾過はRO装置における前処理装置のプレフィルターに、
精密濾過はアフェレシス領域での血漿分離膜に、
逆浸透はそのままRO装置での透析用水の作製に使用されています。
そして、血液透析でのダイアライザー等のフィルターで「限外濾過」が使用されています。
血液透析での限外濾過
血液透析での限外濾過には、下記に記載する2種類の作用に関連します。
物質除去
血液透析での限外濾過はダイアライザーやヘモダイヤフィルターを介して行われます。
上記にて、濾過には多孔質のろ材が必要であると記載しました。
内部にある中空糸がろ材であり、前項で書かせていただいた「半透膜」がそれに該当します。
つまり中空糸型フィルターを使用した血液透析では、
中空糸1本1本を使用し血液側から透析液側へ「限外濾過」を使用して不要物の除去を行い、それと同時に「分子拡散」によっても除去を行っています。
上記の作用により、幅広い分子量の除去を可能にしているわけです。
また、これらを除去できるかできないかの分子量の境目を分画といいます
そして、中空糸の素材により、この分画がどちらかというとはっきりしているものと少し幅を持ったものがあり、前者を「シャープな分画」、後者を「ブロードな分画」という表現をすることがあります。
除水
限外濾過では、不要物の除去を行うと同時に身体に溜まってしまった水分も一緒に除去をします。これが「除水」となります。
濾過は圧力を推進力とすると記載しましたが、この圧力を発生させているのが透析監視装置の内部にある除水機構です。
まとめ
本日は、透析での大切な原理である「限外濾過」に関して書かせていただきました。
詳細まで書くと内容の整理が難しくなってしまうので、基本的な部分を中心に書きましたが、そのうち詳細な部分(マニアックな部分)の記事も書いてみたいなと思います。
それらを考える為にも、今回の記事は大切な第一歩になると思います。
正直に「限外濾過」は奥が深いです。膜素材や膜孔径、圧力、膜劣化関連等の複合要素で治療が成り立っています。自分のわかる範囲で今後も気になった際は記事にさせてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
CE ガッチ
血液透析 (HD)| 東京大学医学部付属病院 血液浄化療法部:東京大学医学部付属病院 血液浄化療法部
”血液透析” 分子拡散について
こんにちは、CE ガッチです。
新年度となり、新しく後輩が出来た方もいると思います。
新入社員の方は1週間が過ぎましたが、どうでしょうか?
現場のリアルな雰囲気や、他の医療職種の方や患者さんとのコミュニケーションとたくさんの困惑する部分はあるかと思いますが、その中で自分が何をもってどのようになっていきたいかをゆっくりと考えていってみてください。
やっていく上で「自分の軸」が少しでも見えてくると、仕事をしていて気持ちの入り方が変わってくるかと思います。
本日は、血液透析に従事している臨床工学技士のブログとしてまずは外せない内容であります。
血液透析の中でも基本の原理である「分子拡散と限外濾過」のうちの「分子拡散」について書いていきたいと思います。
自分たち臨床工学技士に関しては、学生の頃に勉強をしている内容ですので復習がてら読んでいただければ嬉しいです。
この4月から透析室に新しく配属になった看護師等の方もいらっしゃると思います。
それらの方々へも是非勧めていただき、読んでもらえれば嬉しいです。
分子拡散について
分子拡散とは
溶液中にある溶質(ある溶液に溶けている物質)はその濃度が不均一な状態にある場合、濃度の高い方から低い方へ自発的に動き、溶質の濃度を均一にしようとする働き
になります。すごく硬い文章ですね。
もう少し簡単な文章で言うと、
溶けている物質は、濃度を同じにしようとして溶液全体へ拡がっていく
という事です。
この時の推進力はそれぞれの濃度差になります。
動きとしては、
という動き方をします、このような動きによって濃度が平均化されていくわけです。
そして、拡散速度は分子量に反比例します。
つまり、分子量が大きくなればなるほど拡散速度は”遅く”なります。
具体例は?
日常的かは分かりませんが、牛乳にコーヒーを混ぜようとした時に混和しなくても全体へ万遍なく拡がっていき均一になりますね。
これが「分子拡散」という現象になります。
分子拡散という現象に関しては、液体のみならず気体や固体でも起きます。
気体であれば、煙などは空気に混ざります。
無くなって見えるのは、空気の容積が煙のそれに対して大きすぎる為です。
固体であれば、金属の熱伝導等です。
一か所しか熱していなくても、金属は全体が温まります。これは熱量が拡散し均一な温度になろうとしている為です。
分子拡散というものは、案外身近にあるものなのです。
血液透析では
どうでしょうか?
血液透析における分子拡散現象は、血液と透析液の間で起きています。
透析患者さんの血液中には、腎臓で排泄を行っていたものがどうしても蓄積してしまいいます。
水分やBUN(尿素窒素)やCr(クレアチニン)、K(カリウム)等ですね。
水分に関しては分子拡散ではなく「限外濾過」という形になりますのでまた次回にでも詳しく書かせていただきます。
という事で、BUNやCr、Kなどを「分子拡散」の原理を使用し外へ出していくわけです。
蓄積したものは濃度が高くなっています。
という事は、透析液側の濃度をゼロ又は目標濃度(血中濃度より低い)にすればその濃度に向かい移動していきます。
濃度ゼロ→循環している間は外へ出続けていく
目標濃度→蓄積物の血中濃度はその濃度に近づこうとする
大切なのは、透析液側の濃度が血液側の濃度よりも低いという事です。
これらにより、血液中に蓄積したものを外へ出してあげるわけです。
とここまでで済めばよいのですが、血液中には外に出したくない物質もあります。
具体的に言えばALB(アルブミン)や血球・血漿成分(赤血球や白血球、血小板など)などです。
ですので、その部分を外に出さないようにするための”仕切り”が必要になってきます。
これが「透析膜」になります。
ダイアライザーやヘモダイアフィルターの中にある細いストローみたいなもの一本一本がその膜により作られています。
この透析膜は、「限外濾過」をする際にもとても重要な役割を果たしています。
限外濾過を行うためには膜が必要になります。
この事は、また別記事で詳しく書かせてもらえればと思います。
話を戻しますが、ここで外に出してよい物質とダメな物質をふるい分けをする膜「透析膜」が必要になってきます。
このふるい分けをす為、透析膜には1nm(ナノメートル)オーダーでの小さい穴が無数の開いています。
この穴の開き方についても特徴がありますので、時間を見つけて記事にしたいと思います。
このように透析膜は、ある一定の大きさのものまでの分子やイオンを透過する膜であり、それらを「半透膜」(注1)と呼びます。
まとめると,
血液透析では、「半透膜を介して血液中に蓄積した老廃物を分子拡散の原理を利用して透析液側へ移動させて除去という形で外に出している」ということですね。
最後に
今回は、血液透析の原理の一つである「分子拡散」についてかかせてもらいました。
この動きを理解してるかいないかで、血液透析の理解度は随分変わってくるかと思います。
小難しい話にはなってしまいますが、是非覚えてもらえると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
CE ガッチ
(注1):